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ΠΛΑΝΗΤΕΣ
夜の月がある時は大きく見え、またある時は小さく見えるのは何故か。よくよく注意してみれば、高い位置にある月ほど小さく、地に近い月ほど大きく見えるのに気付くだろう。 トムは、静雄がそれに気付くのを恐れていた。 「トムさん……」 大型犬のように懐いてくる静雄は可愛かった。自分は人から許容されて愛されるべきではないと信じていて、そんな自分を愛するトムは無限の優しさを持っていると思い込んでいる。そんなことは決してないのに。 月が大きく見えたり小さく見えたりするのはいわゆる目の錯覚により引き起こされる現象だ。地上に近い位置ではビルや木立と比較するために大きく見え、天空では果てなく広がる夜空と比べてみるので小さく感じる。トムの優しさも、それと同じだ。他人の優しさを知らずにいた静雄だから、トムの渡すごくごく小さなものが大きく思えるだけ。しかしいつまでもトムだけしか知らずにいるわけではない。粟楠茜と、ヴァローナと、折原の双子と、紀田正臣と。静雄と臆することなく接する相手はだんだん増えていて、静雄の世界も広がっている。誰もかもから拒絶され、誰もを拒絶していた小さな背中とは違って。 時が経ち月が昇った頃、トムという人間の小ささが露呈するのではないか。そうしたら静雄は自分を見限るのではないか。トムはそれが怖かった。 実際のところ、静雄は地球から月を眺める人間ではない。アポロに乗って月を目指す宇宙飛行士だということをトムは知らない。 月を目指す彼らにとって、それが大きいか小さいかなど些細な問題ではない。だって、遠い宇宙の広がりの中、目指すのはそれ、ただ一つなのだから。 宇宙にあるものでしりとりすればすぐにわかる真理を、トムはまだ知らない。 |