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オーブンの様子を見ていると、けたたましく玄関のベルが鳴らされた。ピンポーンピポピポピポピポピポーンと続けざまに何度も連打される。こんな鳴らし方をする人物はあいにくと一人しか心当たりがない。 「はいはいっと」 エプロンを外して玄関へ向かう間にも呼び鈴は鳴りつづけている。 いつもは寝汚いポーランドにしては珍しく、今日はリトアニアとほぼ同じ時間に目を覚ましていた。朝食もそこそこに家を出てイタリアのうちへと出かけたけれど特に疑問を覚えもしなかった。だって今日は、ハロウィンだから。本来彼らの家では違う形で行われる年中行事だけれど、イベント好きなポーランドがそれを逃すわけもない。 玄関の扉の前、リトアニアは深い呼吸を繰り返す。開けて早々何をされるかわからないからこその備えだ。 鍵を開け、扉を押す。 「トリック・アンド・トリート!」 ぱぱぱーんと一気に、持てる限りのクラッカーを鳴らされると同時に宣言された一言はリトアニアを酷く面食らわせた。何をされても大丈夫なように覚悟をしていたにも関わらず、だ。 「ぷ、っははは何リトその顔マジうけるしー!」 頭から色とりどりのテープを滴らせて固まるリトアニアを指差して、ポーランドはけたたましく笑った。黒いスラックスに派手なピンクのシャツ、これもまた黒いマントは赤いベロアのリボンで留められて、天辺にカラフルなリボンを生やしたとんがり帽子は金髪を覆い隠している。似合うけれど奇怪な格好がいつもほど悪目立ちしないのは今日がハロウィンだからである。 「トリック・オア・トリートじゃないの…?」 やっとのことで立ち直ったリトアニアが控えめに訊くと、ポーランドは帽子の鍔をくいっと上げて得意げに笑った。 「だーかーら、トリック・アンド・トリートやしー。お菓子も貰って、いたずらもするし!」 高らかに言ったポーランドの左手には真新しいペンキの缶、突き上げられた右手には刷毛。瞬時にポーランドのしようとしていることを悟ったリトアニアは真っ青になって、それから慌てて叫び返した。 「トリック・オア・トリート!」 「へ?」 ポーランドはきょとんとしたけれど、叫んだリトアニアも戸惑って口をつぐんだ。家の壁を塗り直されては堪らないと叫んだはいいものの、正直なところ咄嗟に口をついた言葉を口にしただけで何の意図があるわけでもない。 「えっと、あの、その……」 混乱の中必死で頭を働かせて、リトアニアはつっかえつっかえしゃべり出す。 「だから、あの、俺ばっかりポーランドにお菓子あげて、毎年そうで、だから、ええと……ポーランドも俺にお菓子をくれるべきだと思う!そうじゃなきゃいたずら!」 半ば自棄になって後半は殆ど叫ぶように言うと、ポーランドの眉間に皺が寄った。 「……俺、なんも持っとらんし」 ペンキの缶と刷毛を置き、ポーランドはぱんぱんとポケットというポケットを叩いてみたけれど、どれもむなしい音を立てるだけ。いつもなら飴玉のひとつ、チョコレートのひとかけくらい入っているものだけれど仮装のつもりで用意した服には何もない。 むうぅ…としばらく唸って、ポーランドはこてんと首を傾げた。 「いたずら、する?」 ついでにべろんとシャツを捲り上げて白い腹部をあらわにすると、リトアニアは耳まで真っ赤になった。 本日の勝負、ポーランドの勝ち。 |