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とたたたた、とたたたた、とトーリスはミシンを踏む。布屋の店先で投売りされていたピンクのフリース。フェリクスがしょっちゅう真っ赤になった指先をこすり合わせていたのを見ていたから、ケットを作ってあげようと赤いバイヤステープと一緒につい買ってしまった。今月はもう余裕がないのに、本当に、つい。 古いけれど調整のきちんとされたミシンを出してきて、トーリスは縫い物を始めた。フェリクスはトーリスが帰ってきたことにも気づかず、小さなアパルトマンには大きすぎるセミダブルのベッドの上で規則正しい寝息を立て続けている。 切りっぱなしのフリースの端にバイヤステープを合わせて待ち針を打つ。裁縫箱からピンクと白の二色をよったミシン糸を取り出した。買ったら高いであろうこの糸は、フェリクスがフェリシアーノからもらった物だった。綺麗だからって買ったけど、使わんからって。そう言いながら差し出された糸はフェリクスの好きそうなもので、トーリスは少しだけ、フェリシアーノに嫉妬した。 とたたたた、とたたたた。トーリスは丁寧にミシンをかける。布の端をまっすぐ二週して、バイヤステープで固定するだけの単純な仕事。代わりにできるだけ、綺麗になるようにと縫い続けた。 「トー、トー」 後ろから寝ぼけた声が聞こえて、トーリスは手を止めた。フェリクスがベッドの上で上半身を起こして、猫のようにあくびをしている。寝起きで目元が赤い。 「どうしたの、フェリクス」 「腹減った……今日の晩メシは?」 一瞬、トーリスの息が詰まる。努めてゆっくり呼吸をしながら、少し笑って見せた。 「今縫い物してるから、終わったらじゃがいものパンケーキを焼いてあげる。それからスープと、昨日の残りのKotlet schabowyでいい?」 「ん。なんかしとくこと、ある?」 「じゃあ、じゃがいも摩り下ろしておいて」 「任されたし」 んーと大きく伸びをしてから、フェリクスは狭い部屋を器用にすり抜けてキッチンへ向かった。すぐに流水の音が聞こえ、また静かになる。それでも無音ではなく、包丁でじゃがいもの皮を剥く音が耳を澄まさずとも聞こえてくる。 これだから、狭いアパルトマンを嫌いにはなれないとリトアニアは少しだけ、笑った。 とたたたた、とたたたた。ミシンの音が部屋に響く。 |