五体不満足


 フェリクスの五体は不満足だ。幼いころからの虐待で神経が傷つき、右手の指先が時々痺れる。そうなるとペンを持って字を書くことさえままならなくなってしまうので困っていた。だからフェリクスのノートには、無意味な落書きがたくさんある。
 左足もあまりよくなかった。一度折られて、すぐに適切な処置をしてもらえなかったためにおかしなまま治癒してしまったそうだ。一見何の問題もないけれど、寒くなってくると杖をつかなければ歩けなくなる。フェリクスは杖を嫌がって普段から全く平気そうに駆け回っているけれど、トーリスはそれを見るたびに気が気でない。
 誰のせいなんだろう。こんな風に痛みを抱えて生きなくてはならないのは。フェリクスは何も、悪いことはしていないのに。


 トーリスはよく発作を起こす。施設で育ったころからあるのだというけれど詳しい原因は本人にもわからない。ただ時折、全身ががくがくと震えて涙も出ないほどの不安に襲われた。ポケットの中には発作止めの薬がお守りのように入っている。
 それでも今はまだいいと笑って見せる。施設では原因もわからず、押しつぶされそうな不安に一人で耐えていたそうだ。唯一親身になってくれる弟分たちに心配をかけたくないと、布団を被って、クロゼットに閉じこもって、治まるのを待っていた。笑いながらトーリスは話してくれたけれど、フェリクスは怒鳴りつけたい気持ちになる。
 誰のせいなんよ。こんな風に痛みを抱えて生きなくてはならないのは。トーリスは何も、悪いことなんてしとらんのに。


 呼吸すらうまくできず、もはや感情からではない涙をぼろぼろと零しながら発作に耐えるトーリスを、痺れた右腕をゆっくりと動かしてフェリクスは抱きしめる。血流の問題か、体幹から話した手の震えは増したけれどかまうものかと力を入れた。
 台所でケトルの笛が二人を呼ぶ。フェリクスに今応えてやる気はなかった。吹き零れるなら零れるがいい。それよりもまずトーリスを抱きしめることのほうがよほど大事だ。
 多分トーリスもそうしただろう。だからけたたましい笛のなる狭い部屋、不似合いに大きなベッドの上で冬篭りをする生き物は身を寄せ合う。



苦学生パラレル、続きともいえないもの。




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