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酷く憔悴した様子のリトアニアをフィンランドから受け取って、エストニアは泣き出したい衝動に駆られた。 体力は依然戻っていない様子で、本当ならもっと療養した方がいいのに国に帰ると無茶を言ったのはリトアニアだ。 けれどそれすらも、周辺国の彼らにとってはいつものことで。 少しふらつくリトアニアの手を取って支えようとしたら拒絶された。 何事も無かったかのように少しだけ笑って、エストニアはリビングの椅子を引いた。 大人しく腰掛けたリトアニアを待たせて、キッチンへと向かう。 ポークのスープストックで裏ごししたじゃがいもを煮て、牛乳で風味をつけただけの簡単なスープと柔らかい焼き立てのパンを用意する。 しばらく何も食べていないであろうリトアニアの体にも良いものを。 リトアニアに食事を摂らせなければと、エストニアは軽い焦燥すら覚えていた。 リビングに入ると優しいミルクの香りにリトアニアの顔がエストニアを向いた。 空虚な瞳に見つめられると耐えられなくなり、エストニアはさりげなく視線を外す。 「ポテトとミルクのスープです。食べてください」 木製のスープボウルをリトアニアの前に置き、同じく木作りの丸いスプーンを握らせる。 ひとさじ掬って口元まで持っていく。 向かいの椅子に腰を下ろしたエストニアの体に力が入る。 ロシアに対するのとはまた違う緊張で体が動かない。 「嫌」 唇に触れる直前で、リトアニアはスープボウルの中に匙を投げた。 瞳が少しだけ笑みの形に歪んでエストニアを見つめる。 「じゃがいもは嫌。ポークのストックはもっと嫌。どっちも俺のご飯じゃないもの」 リトアニアは妙に扇情的な笑みを浮べてエストニアの手を握る。 口元はゆったりと微笑んでいるけれど、物欲しげな瞳の奥は得体の知れないものが渦巻いている。 目を逸らしたい。けれどそれは許されない。 「ねぇ、俺のご飯を頂戴」 「あ……」 薄い唇の動きにエストニアは息を飲む。 かたかたと腕が震える。 それを感じてリトアニアはさらに瞳の笑みを深くした。 「いじわるしないで、ね…?」 「っ!」 エストニアは大袈裟なほどに利き手を跳ねさせると、何かに追われるような様子でテーブルを探った。 隅にいつも置いてあるシュガーポットをやっとのことで掴むと、リトアニアの前に突き出す。 リトアニアはエストニアの手を握るばかりで動こうとしない。 「よくできました。エストニア、俺のご飯はなあに?」 「……何もいれないミルクと……角砂糖、です」 震える声でエストニアは答える。 リトアニアは時々、ミルクのスープすら飲まず、角砂糖をかじりミルクを舐め、人形のようになる。 そのときのリトアニアがエストニアは苦手だった。 今も震えは止まらない。 「エストニア、」 睦言のように名前を呼ぶとリトアニアは唇を開いた。 エストニアは震える指で角砂糖をひとつ、つまむ。 注意深く少しずつ、行儀よく静止したままのリトアニアの唇に近づける。 角砂糖が、唇の奥の歯に触れた。エストニアの体が跳ねる。 急にリトアニアが口を大きく開け、歯に触れた角砂糖をざり、と口の中に入れた。 一瞬、本の一瞬だけだけれどエストニアの指先に舌が触れる。 物を食べなくなったリトアニアの舌は熱く柔らかく、とろけるようだった。 食らった時の早さからは比べようもないくらいゆっくりと、リトアニアは角砂糖を口の中で転がす。 ゆっくりゆっくり、ほろほろととけてゆくのを楽しむように。 甘いだけの塊を味わうように。 やがて全てとかし終わったのか、喉がこくんと上下する。 それからにごった瞳がまたエストニアを捉えた。 「エストニア……もういっこ」 「はい……リトアニア」 言われるがままにもうひとつ、角砂糖をつまむ。 このときのリトアニアがエストニアは苦手だった。 狂うほどに愛されていると勘違いしてしまうから、本当に苦手だった。 がらんどうの瞳は、熱心に見つめているけれどエストニアを映してはいない。 |