|
息を切らせてポーランドは夕方遅い街を走る。常はのんきでものぐさな彼にここまでさせるのはバルト海の向こう側からの電話。フィンランドが、リトアニアを拾ったと伝えたからだ。 石畳をとんとんと蹴るたびに息が弾む。それでもとにかくリトアニアに会わなくてはとポーランドは走る走る走る。夕方は短い。燃える空は急速に勢いをなくし、真ん丸い月が昇り始めている。 「リト!」 ぱぁんと乱暴に扉を開け放つ。鍵はかかっていなかった。無用心さに余計腹が立って乱暴な足音を立てて家に踏み込んだ。これでもかというくらいうるさくしているのにリトアニアは出てくる気配を見せない。外の木がざわざわと揺れる。外はみるみるうちに闇に沈んでゆく。噛み締めた奥歯が痛い。 果たして、キッチンの片隅にリトアニアはいた。木の椅子に腰掛けて、小さく揺らしながら古ぼけた作業台の上で角砂糖を並べている。一列、また一列と、白い砂糖が行儀よく並ぶ。 「リト」 きぃ、きぃ、と椅子が鳴る。使い込んだ木の椅子は脚の長さが不揃いになってしまっていて、リトアニアが体重を移動させるたびに音を立てて揺れた。横顔は白く、頬が少しこけている。痩せた。最後に会ったときよりも、ずっと。 「なぁ、リト」 関節ばかりが目立つ指が角砂糖をつまむ。ひとつ、ひとつ、ゆっくりと時間をかけて並べてゆく。もう少しで机が全部埋まりそうだ。はたから見るとまるで元々白い机だったようにさえ見えてしまいそうなくらい。 「頼むから、返事しろし、リト…」 かさかさの薄い唇が開いて角砂糖を一つ、くわえ込んだ。日の暮れた部屋の中、小さな窓から月が淡く光る。リトアニアの瞳に映りこんで、優しく淡く光っている。 角砂糖が減ってゆく。少しずつ、ひとつずつ、リトアニアは砂糖を口の中で溶かして嚥下する。 「リト、なぁ、リト…」 縋り付いて名前を呼ぶと、リトアニアが少し笑った。ポーランドを見下ろす瞳は優しかったけれど、映るのは金色の髪ではなくよく似た色の月だった。 お願いなんて殊勝に言っても、何かに操られたように笑うこの子は聞き入れてくれない。きっと。多分。絶対。 |