お願いだから話を聞いて!


 元々どちらかといえば自分のことには疎い方だし、女の子らしく着飾っているよりは森を駆け回っている方が性に合っている。けれどそれがこんな結果を引き起こすならもう少し自分のことに気を使っておけば良かったと心のそこから思う。
 今更思ったところでとっくに手遅れなんですけどね!
「お風呂上りましたよー」
 サウナでゆっくりして、いい気分でほかほかしながらソファに向かって声をかけたらスーさんがぎろりとこっちを見た。わかってる、本人はこっちを見ただけだって。でもいかんせん目つきが悪いから睨まれているみたいでいまだに一瞬身構えてしまう。
「そんじゃあ、こ」
 手招きをされてわたしは思わず体をこわばらせる。……行かなきゃだめかな。もう毎日恒例になってしまったけれど避けたいものは避けたい。何とかかわせないか悪あがきをしてみたけれど、もう一度短く「こ」と言われてはどうしようもなかった。わたしの意気地なし。
 恐る恐る近づいてスーさんの隣に座るけれど、軽々と抱き上げられて脚の間に座らせられてしまう。何回されてもどうしていいかわからなくって心臓ばかりが無駄に動いてしまう。
 スーさんに抱きしめられながら小さく小さくなっていたら、お腹に回っていた右手がそろりと左胸に触れた。
「おひゃあ!」
 思わず悲鳴をあげたら一瞬手が止まったけれど、すぐにまた動き出す。サウナから出たら後は寝るだけだから、もちろん下着なんてつけていない。寝巻き越しに触られて、胸の輪郭をなぞりふくらみを持ち上げるように何度も何度も撫でられる。優しく優しく、マッサージをするように。
 正しくこれはマッサージだったのだけれど。
 女性用の下着を身につけるのは窮屈だし苦手だと語ったときに、花たまごの名づけの時のような凄まじい顔をされ、以来わたしの『女の子らしい』ことのケアはなぜか一切スーさんがするようになってしまった。ずるずると引きずられるままに下着店に放り込まれ、それでも身につけるのを躊躇っていたらスーさん手ずからわたしにブラジャーを着けようとしてきたからわたしの方が折れた。それから時々かわいらしい洋服をわたしのために買ってきたり、洗髪料もスーさんが選んで、月に何度かヘアパックもされる。それから極め付けがこれ。毎晩のバストマッサージである。全くどこから仕入れてきたのだろう。
 毎晩必ずお風呂上りにマッサージされる。本当は素肌にスキンケアかマッサージ用のローションを使ってするのが正しいそうなのだけれど流石にそこまではしない。あくまで寝巻きの上からであるが、それもわたしが素肌にローションを断固拒否したからであってスーさんは直接する気満々だった。そのときにスーさんが持ってきたマッサージ用ローションは洗面台の肥やしになっている。
 そしてなぜか毎回、後ろから抱きしめた体勢でマッサージされる。いや、わかってます。それが一番やりやすいからだってことは。でもそうするとスーさんの顔が見えないから、わたしもどう反応していいかわからなくてとても不安なんですけど……。
 いつも最初は左胸から。片方ずつ時間をかけてゆっくりと触られる。外側から内側へ、胸の輪郭をなぞるようにマッサージされてぴくんと体が震えてしまう。スーさんの手はとても大きくて、わたしの胸なんかすっぽり納まってしまう。温かい手のひらを何度も何度も滑らせられて、だんだんだんだんどきどきしてしまうのもいつものこと。でもスーさんは終始無言だし、後ろから抱きしめられていては表情も見えない。だからわたしは、必死で自分に言い聞かせる。「スーさんはいやらしいことをする気で触ってるわけじゃないから!」って。でもいくら言い聞かせたってつらいものはつらいんです。何度も何度もされて馴らされたわたしの身体には。
 十分にし終わったのか、今度は左手が右胸に伸びる。そしてまた同じように、弧を描くようにマッサージ。大きな手が動くたびに胸の先端が固くなってるのが自分でもわかるのに、スーさんは気付かないのかな。触られているところがじんと熱くて涙が滲む。こんな生殺しみたいな時間、早く終わればいいのに。身体がびくびくと跳ねてしまうのを抑えるのはとても大変なんですから!
 目をとじて、なるべく何も考えないようにしていたらやっと最後まで終わって手が離される。
「終わったべ」
「あ…はい」
 顔を覗き込んできたスーさんに返事を返す。目を開けてスーさんを見ると、いつになく慌てた顔をしていておひょ?と首を傾げる。
「なじょした」
「へ?」
「泣ぐみでぇな目ぇして、気分さ悪なったが」
 言われて目元をぬぐってみれば確かに、自分で思っていた以上に涙で潤んでいたようだ。ほとんど気にしていなかったけれどスーさんは違うようで、いつもの無表情を三割増しは怖くしておろおろしている。常にない様子にわたしの口元は密かに緩むのを止められない。
「なんでもありませんよ、気にしないで下さい」
「んだげど…」
「本当になんでもないんですってば」
 慌てたスーさんがかわいかったのと、ちょっと仕返しがしたかったのとでほんの少しだけ意地悪してみた。懲りたんだったら、少しはわたしの話も聞いてくださいよ。ね。


友人よりもらったネタより。野生児すおみの世話を焼くスーさん。
旦那はいたって真面目です。雰囲気エロを目指したのですが、果たして。





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